50音ショートショート

50音分のタイトルで短編を書き終えれたら、関係ないけどとりあえず仕事やめようと思う(-A-)

(す)澄んだ、空気と、淡い、夜更けに

子供の頃、「深夜」と呼ばれる時間帯は、恐ろしく長く、孤独なものだった。家族が寝静まり、しんとした暗い部屋で、夜中ふと目が覚めてしまった時、進む時間の遅さに恐怖すら感じたものだ。誰もが眠りにつくはずのこの時間帯に、自分だけが起きてしまってい…

(さ)サイエンス・フィクション

【2014年 ラーメン屋にて】岡山宏が昨日と全く同じ店で、昨日と全く同じ塩ラーメン定食を注文したのを見て、僕は、おや、と思った。そういえば、今日の岡山は、いつもの色褪せたパーカーとジーンズではなく、彼にあまり似合わない紺色のポロシャツとワイン色…

(そ)その痛み

今朝から歯が痛くて仕方ない。しかし、今はそんなことに気を取られていては駄目だ。今は、私の人生において、きっと重要な場面なのだ。この場面に集中しなければならない。私はぐっと眉間に皺をよせ、彼の泣き出しそうな横顔を無言で見つめた。「佳子には本…

(し)死にたがりのシチュエーション

理想の死に方は不慮の事故だ。たとえば、青信号の横断歩道を渡っている最中、信号無視で突っ込んできた車に撥ねられて死ぬのが好ましい。さらに言えば、その車の運転手が飲酒していたり薬物中毒者であれば、一層同情も集まるので好ましい。もっと欲を出すの…

(せ)セントエルモの火

息子が万引きをした。それは僕にとって、かなりセンセーショナルな事件だった。僕が務める会社に、颯太の通う小学校から電話がかかってくるなんてことは初めてだったし、颯太が万引きという「非行」に走ったのもやはり初めてだった。会社の同僚に早退するこ…

(く)クリスマス・サプライズ

隣の席に座った男の顔を見たとき、ぴんときた。男が網棚に何やら荷物を押し込み、座席に腰掛ける際、一瞬だけ目があったのだ。その「ぴん」は、運命の人を見つけた時の「ぴん」でもなければ、「あ、◯◯さんだ」という明確な「ぴん」でもない。誰かはわからな…

(こ)これからの話を

「佳菜子ってさ、友達全然いないよな」 それまで聞き流していた話の中に突然組み込まれた自分の名前にはっとし、私は思わず「え?」と声の主、雄一を振り返った。 「聞いてなかっただろ。お前最近ずっとぼーっとしてるよ」 彼は短くなった煙草を灰皿に擦り付…

(け)決別の賛歌

彼女は天才を愛していた。何故なら、彼女自身が天才ではなかったからだ。 彼女のピアノの技術はとても高かった。しかし、彼女が奏でる音は、輪郭も、表情も持たなかった。どれほど血が滲むような練習を繰り返しても、彼女の指からはのっぺりとした、無機質な…

(ち)父

父はとても無愛想な人だった。 私が小学生だった頃、父の日のプレゼントにと、図画工作の時間に父の似顔絵を描いたことがあった。 小さい頃から絵が得意だった私は、父の顔を思い浮かべながら似顔絵を紙いっぱいに描いた。 できあがったそれは我ながら良い出…

(き)記憶の支配者

男は初恋の人が忘れられないという。幼かったあの頃からは、好みや恋人に求める条件も大きく変わっているはずなのに、そもそもそれほどよくその子のことなんて知らなかったはずなのに、その名前を聞くだけでドキリとし、甘酸っぱい気持ちでいっぱいになる。…

(か)彼

私が彼を殺した。 比喩でもなんでもなく、ただ、物理的に。 二度と息が吹き返さないよう、できるだけ念入りに、念入りに、4度刺した。 最初は背中から。いつもむね肉を切るのに使っている包丁を両手に握りしめて、少し走りながら勢いよく刺した。幸い骨には…

(お)終わりの終わりに

凍てつくような真冬の朝、会社に行くまでの道のりで突然酷い衝撃を背中に受けた時、「あぁ怨念に遂に追い付かれたのか」と直感した。 まず最初に浮かんだのはストレスを理由に仕事を辞めた後輩の顔だった。「もう僕無理っぽいです。」 白い息を吐きながら冗…

(え)えっちゃん

えっちゃんは昔からとても好奇心旺盛で勉強熱心な女の子だった。興味を惹かれることがあると徹底的に調べ、学び、そして自分なりの仮説を立て、試し、また学ぶ。そして一度覚えたことを忘れることがなかった。 幼少期からその特性を発芽させたえっちゃんは3…

(う)うざい女

「私ってさ、サバサバしてるじゃん?だから女々しい男ばっか寄ってきてさ、正直恋どころじゃないんだよねぇ。」 今日も亜莉沙は汚い肌にありったけの白い粉を塗りたくり、目の周りを可愛くないパンダみたいにして、普通に不細工な顔でギャンギャン吠えている…

(い)いまがそのとき

「どうしてまだ聴いてないの、チャーリー・パーカー!せっかく勧めてあげたのに!」 ストローをくわえてジンジャエールに息をぷくぷく吐き出しながら僕を睨む恭子を「行儀が悪い」と咎め、僕は自分が頼んだアイスコーヒーに口をつける。 それは、カランとい…

(あ)雨上がりを待つ間

「最悪死ねばいいんだ。」 今日何度目かわからないその台詞を自分に言い聞かせ、自転車の重いペダルをゆっくり踏みこむ。陽が沈むのと同時にぽつぽつ降りだした雨から逃げるよう、徐々にスピードを上げていく。薄暗くなった道を進めば進むほど私自身が足元の…

まず、仕事をやめるために

毎日毎日仕事もうやだー!となっている青いぺーぺーの僕は考えました。 もういっそ仕事やめちゃうぞ!と。 仕事やめて、田舎に移住して悠々自適にカフェとかやってやるぞ!と。 でもお金ない。辞める覚悟もまだない。 なので、心の整理をつけてやりましょう…