か行
「佳菜子ってさ、友達全然いないよな」 それまで聞き流していた話の中に突然組み込まれた自分の名前にはっとし、私は思わず「え?」と声の主、雄一を振り返った。 「聞いてなかっただろ。お前最近ずっとぼーっとしてるよ」 彼は短くなった煙草を灰皿に擦り付…
彼女は天才を愛していた。何故なら、彼女自身が天才ではなかったからだ。 彼女のピアノの技術はとても高かった。しかし、彼女が奏でる音は、輪郭も、表情も持たなかった。どれほど血が滲むような練習を繰り返しても、彼女の指からはのっぺりとした、無機質な…
男は初恋の人が忘れられないという。幼かったあの頃からは、好みや恋人に求める条件も大きく変わっているはずなのに、そもそもそれほどよくその子のことなんて知らなかったはずなのに、その名前を聞くだけでドキリとし、甘酸っぱい気持ちでいっぱいになる。…
私が彼を殺した。 比喩でもなんでもなく、ただ、物理的に。 二度と息が吹き返さないよう、できるだけ念入りに、念入りに、4度刺した。 最初は背中から。いつもむね肉を切るのに使っている包丁を両手に握りしめて、少し走りながら勢いよく刺した。幸い骨には…